承認審査が始まると、PMDAから「照会事項」が届きます。
初めて受け取ったとき、その量と細かさに圧倒されることがあります。
しかし照会事項は「審査に落ちたサイン」ではなく、審査員との公式な対話のプロセスです。
この記事では、照会事項への向き合い方と回答書の書き方を、現役の承認申請担当者の実務感覚で解説します。
1. 照会事項とは何か
照会事項は、審査の過程でPMDAが申請者に対して発する質問・確認・追加資料の要求です。
照会事項の回数は、制限はありませんが、一般的には1~3回程度出されることが多いです。
照会事項には、回答期限が記載されているため、期限までに漏れのない回答をすることが重要です。
回答が遅いほど承認も遅れます。

2. 照会事項の3つのタイプ
照会事項を、対応の性質ごとに3つのタイプに分けて整理します(※この3分類は公式の用語ではなく、実務経験を整理するための本記事独自の分類です)。
| タイプ | 中身 | 対応の姿勢 |
|---|---|---|
| 確認型 | 記載の不整合・誤記・不明瞭な表現の確認 | 即答できる体制があれば早い。転記ミスは素直に認めて正誤表で対応。 |
| 根拠要求型 | 規格値の設定根拠、試験デザインの妥当性の説明要求 | 社内の開発資料から根拠を掘り起こす。ここで時間がかかるかは申請前の準備次第。 |
| 懸念提示型 | 安全性・性能への具体的な懸念の提示(試験報告書の提出を含むことも) | 最重要。懸念の本質を読み取り、データで応えるか、リスク分析で応えるか、戦略を立ててから動く。 |
実務上、審査期間中に新たな試験を実施して提出することは、原則として認められません。
審査期間中に試験を実施するとなると、タイムクロック期間内で審査が終わらなくなるため、申請の取下げをPMDAから提案されることが多くなります。
ただし、既に実施している試験をすぐに提出できるのであれば、認められることが多いです。
3. 回答書の書き方:基本の型
回答書の基本の型は「結論→根拠→資料参照」の三段構成です。
- NG例①:聞かれていないことまで説明して、新たな照会の種をまく回答
- NG例②:「問題ないと考える」だけでデータの裏付けがない回答
- 結論:照会への答えを最初の1〜2文で明確に述べる(Yes/No/修正します、のどれかが即座に分かるように)
- 根拠:結論を支えるデータ・文献・規格・リスク分析を簡潔に示す
- 資料参照:根拠の詳細資料(試験成績書の該当ページ等)を正確に指し示す
PMDA側も、ある程度の「落としどころ」(文献でOK、試験成績書がないと厳しい、など)をイメージしながら照会事項を送っている場合が多いです。
電話で、どのような方針でまとめると受け入れられそうかを審査担当者に確認しながら作成すると、効率的です。対応に悩む場合には、Web面会の設定をお願いすることも可能です。
4. 実例で学ぶ:照会と回答のビフォーアフター
実務でよくある2つの照会パターンを、架空の事例で「照会文 → 回答の骨子」の形で示します(実例をもとに一般化しています)。
例1(根拠要求型):性能規格の設定根拠
照会(例):「性能試験○○の規格値をXX以上と設定した理由を説明してください。」
回答は、次の3ステップで組み立てます。
規格値は臨床上必要な性能水準(文献や先行品の仕様)から導出したことを、結論として冒頭で明示します。
その水準がなぜ臨床上必要で、どのように規格値へ落とし込んだのかを、順を追って細かく説明します。
開発時に、他の規格値等でも試験を実施した上で規格値を設定している場合には、その試験成績書を提出して説明することも効果的です。
試験報告書の数値を踏まえて、規格値の幅が広すぎると、適切でないと言われることがあります。
試験報告書の数値を踏まえても、規格値の設定は妥当であることを説明します。
例2(懸念提示型):長期使用時の耐久性への懸念
照会(例):「長期使用を想定した場合の耐久性が十分に担保されていることを、説明してください」
この場合も、型は同じです。
追加データがある場合には提出して懸念に答える、という方針を冒頭で明確に示します。
この情報では足りない場合には、Step2に進みます。
追加データで応えられる範囲と、応えられない範囲を切り分けます。
応えられない範囲は、類似する医療機器などの結果を外挿して説明します。
5. 照会を「減らす」ためにできること
照会への最善の対応は、そもそも照会を減らすことです。申請前にできる対策を4つにまとめました。
① 申請書とSTEDの整合性を、最終チェックする
使用目的の表現、規格値、単位——ひとつの不整合が、ひとつの照会になります。「承認申請書とSTEDの書き方」の申請前セルフチェックリストが、そのまま使えます。
② 規格・試験デザインの「設定根拠」を文書化しておく
「なぜこの規格値なのか」に即答できる状態にしておくと、根拠要求型の照会の多くはその場で返せます。開発時の検討経緯を社内文書に残しておくことがポイントです。
③ 先行品の審査報告書、照会事項で「頻出論点」を予習する
PMDAが過去に何を論点にしたかは、公表されている審査報告書で読めます。照会事項についても、情報開示請求で入手することができます。先回りしてSTEDに書いておけば、照会になる前に答えたことと同じです。
④ 判断が割れそうな論点は、申請前に対面助言で潰しておく
大きな論点は、事前に対面助言で確認する方が審査は早く進みます。「PMDAの相談制度の使い方」で解説しています。
よくある質問(FAQ)
まとめ:照会事項は「対話」——型と準備で乗り切る
この記事の要点は、次の3つです。
- 照会事項は審査員との公式な対話。初動の速さが承認時期を左右する。回答書は期限内に提出する。
- 回答書は「結論→根拠→資料参照」の三段構成。迷ったら電話で審査担当者に方針を確認しながら進めるのが効率的
- 照会を減らす最大の対策は申請前の準備(整合性チェック・設定根拠の文書化・相談制度の活用)
承認申請の全体像は「医療機器の承認申請 完全ガイド」、申請書類の作り方は「承認申請書とSTEDの書き方」、申請前の相談は「PMDAの相談制度の使い方」で解説しています。
本記事の根拠(出典)
本記事は、次の公表資料と現役実務者としての経験に基づいて作成しています。
- 「新医療機器に係る承認審査の標準的プロセスにおけるタイムラインについて」(平成25年11月20日付け 薬食機発1120第1号)——審査プロセスと「主要照会事項」の位置づけ
- PMDA「承認審査の標準的プロセスにおけるタイムライン」(新医療機器・改良・後発の各ページ)
- PMDA「プログラム医療機器の薬事開発・承認申請に関する手引き」——標準処理期間(タイムクロック)の考え方

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